安産のための鍼灸治療

不妊治療を継続してこられ、遂に念願の妊娠をした方々、特に高齢妊娠の方に対しては、母体をお守りし、お腹の赤ちゃんを丈夫に育ていくように、妊娠を安定したものにしていかなければなりません。

しかし、母体では妊娠により、新たなhCGホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)分泌が起こり始め、もともとのホルモン分泌量も増加・減少が起こり、従来の安定した体内環境が崩れてしまいます。

この変化に適応できないと、結果として、つわり・流産・妊娠中毒症などの悪影響に及んでしまいます。
また、むくみ、疲労感、頭痛、腰痛、情緒不安定、体型の変化など様々な変化がみられます。

◎正常妊娠・維持の条件は、以下の3つがあげられます。

  1. 健康な母体
  2. 胎盤の解剖学的位置・生理機能が正常
  3. 胎児の発育が正常

この中で、一番重要なことは『母体』になります。それは、胎児の発育環境を安定させ、胎児の発育
に必要な新陳代謝を充足的に提供する為の保障をするからです。
実際、着床から出産までの長い十ヶ月間に本来正常な自律神経や内分泌環境が崩れ、体型・体質
など様々な変化により、心身共にストレスを抱える状態が続きます。そして、母体を支え、胎児の成長
を順調に進めることが『安産のための鍼灸治療』の役目です。

迎春堂の安産理論

妊娠の経過は、「妊娠」という特別な負荷に対する母体の適応過程です。
母体に負荷するものは、

  • 胎児…日々成長していく胎身体、及び増加していく胎児付属物の荷重が、胸腹内臓及び大動脈を
    圧迫します。
  • 胎盤…妊娠後、母体と胎児の間に連結という役目の胎盤が形成され、妊娠四カ月末にほぼ完成
    します。その形成過程は、まず受精卵が着床した子宮内膜が脱落膜というものに変化します。この
    脱落膜に胎芽を取り巻いている絨毛という突起状の組織が入り込んでいき、これが胎盤となってい
    きます。胎盤は38週頃まで成長し続け、最終的には、直径15~20cm、厚さ2、3cm、重さ500gの円盤
    状のものになります。
    • A. 胎盤は、胎児の新陳代謝に必要な物質交換の場です。胎盤を通してガスと物質の交換量は日毎に増します。母体の負担も日々増加します。
    • B. 胎盤は、新しい分泌器官で、妊娠を正常に進める為、新たなhCGホルモン(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)を分泌し始めます。それに対して、内分泌コントロール系の立て直しをしなければなりません。
    • C. 胎盤の組織産物は、母体の代謝により変化しますが、その生理機能の失調が妊娠中毒症の原因になります。

以上の負荷に対して、母体が適応不全になると妊娠異常が発生します。
妊娠した日から始まる胎児と胎盤の発育は、母体の新陳代謝・内分泌コントロール系などの生理的なバランスに変調をきたします。胎児発育の変化に伴って繰り返し身体のバランス修正が必要です。

中医学の陰陽平衡理論の立場で妊娠の生理機能の説明をすると、胎児を養育する為、気血供給が増え、母体は陰血不足になり、それにより生理機能が変調し易く、敏感になります。このことを『陽気偏亢』といいます。妊娠の病理状態の本症は、『陰血不足』、標症は、『陽気偏亢』と考えます。

逆子の灸治療

逆子灸について
逆子の灸治療は中医学数千年の経験上、最も有効で身体に負担の少ない自然治療法です。
逆子は中医学では胎位不正と言われます。
赤ちゃんの頭が子宮の中で上位や横位になっている状態を言います。
逆子の原因は不明ですが、東洋医学では腎の腎気不足と考えます。
腎の腎気不足は、母体を冷やし子宮内を硬く緊張させ、子宮自体を冷やしてしまいます。(宮寒という)
また、エネルギー循環を弱め、ストレス・身体の疲れ・寝不足・むくみなどの原因にもなります。
逆子の治療は早い時期に行えは不正胎位を正常胎位に戻せる確立が高いのです。
特に高齢妊娠の方、仕事で長い時間座っていたり立っていたりの方など、逆子は難産の原因にもなり分娩困難な場合は帝王切開になってしまいます。
逆子の治療にはお灸が最適であり、中国伝統療法においても最も効果的な治療法であります。

中医学的にみた主な妊娠合併症

流産  

後期流産(妊娠12週以降22週未満)は、通常母体側の原因で発生します。
体質的に元々やせ型で平素から体質虚弱、あるいは疲れやすい。
妊娠消耗過多状態が続くと「昇陽受納作用」が低下し、子宮頚管口が弛緩・無力になり、胎のうが脱出し易くなり流産となります。

妊娠中毒症とつわり

『陽気偏亢』、自律神経・内分泌の中枢とも緊張状態にあると、血管張力が増加した場合に高血圧(妊娠中毒症)になります。
内分泌コントロール系の平衡が崩れると、水分代謝障害で浮腫(むくみ)が発生したり、嘔吐中枢が敏感な状態で胃腸の蠕動運動機能が上逆するまで変調すると、つわりとなります。

胎盤機能低下

血管張力が増加すると血流が減少し、胎盤機能が低下しやすい状態になります。

妊娠中における代表的な異常

流産

全体の約15%に見られますが、40歳以上では25%に上昇することからもわかるように、母体の加齢とともに確率は高まります。早期流産は、胎児側の異常により全体の13.3%に見られます。原因として、染色体異常、遺伝病、多胎妊娠などがあげられます。一方、後期流産は母体側の異常により全体の1.6%に見られます。原因として、頸管無力症、子宮奇形などが起こり易いです。

先天異常

35歳以上になると、発症率が高くなるのは事実です。とある調査では、25~29歳で1.88%、35~39歳では2.02%、40歳以上では2.38%の確率となっています。加齢が影響し易いのは、とりわけ染色体異常(ダウン症など)です。

妊娠中毒症

何らかの原因により起こる、妊娠に対する母体の適応不全です。むくみや蛋白尿、高血圧などの症状が出現したもので、中でも高血圧に注意が必要です。また、重篤な合併症を引き起こす要因にもなり、注意が必要です。